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青森地方裁判所 昭和29年(行)71号 判決

原告 清水喜一 外一三名

被告 青森県知事

主文

原告喜一、同栄八、同春松、同市太郎、同兼蔵、同兼松、同熊太郎、同定吉、同松之助、同岩吉、同市蔵、同寅吉の請求にかかる被告知事が、八戸市大字鮫町字金屎三五番一号山林三二町三反一畝一〇歩のうち一〇町一反五畝二四歩につき、昭和二七年七月八日附青森県報第三八九六号に公告してなした未墾地買収処分のうち、登記簿上原告市太郎、同兼蔵、同熊太郎、同岩吉、同定吉、同松之助、同市蔵、同喜一、同栄八名義の右山林の持分権(いずれも一五分の一)に関する部分が無効であることを確認する。

原告荘治、同三四郎両名の請求を棄却する。

訴訟費用中第一項記載の原告らと被告間に生じた部分は被告の負担として、第二項記載の原告両名と被告間に生じた部分は右原告両名の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

(一)  被告知事が、八戸市大字鮫町字金屎三五番一号山林三二町三反一畝一〇歩のうち一〇町一反五畝二四歩につき、昭和二七年七月八日附青森県報に公告してなした未墾地買収処分は、各原告につき別紙目録および図面表示の範囲について無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(二)  もし、右請求が理由がないときは、主文第一項同旨および訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。(注、原告荘治、同三四郎も他の原告らと同一請求をしたものである。)

第二請求の原因

(一)  八戸市大字鮫町字金屎三五番一号山林三二町三反一畝一〇歩(以下「本件土地」という。)は、もと宮内省の所有であつたところ、大正一〇年中、原告市太郎、兼蔵、熊太郎、岩吉、定吉、松之助、市蔵、喜一、栄八および訴外高橋誠、磯島石太郎、同岩五郎、同吉松、同山四郎、伊藤倉三の一五名において共同して払下をうけ、大正一四年四月二八日払下代金を納付し、平等の持分権を取得し、昭和一九年三月二〇日その旨移転登記を経由したものである。

(二)  しかるところ、本件土地の共有者につき昭和二三年五月ころまでに次のとおり変動があつた。

(1)  訴外高橋誠は、昭和一六年秋ころその持分権をその姉の夫に当る原告高橋荘治に贈与した。

(2)  原告磯島兼蔵は、大正一五年四月ころその持分権の一部を分家に当る原告磯島兼松および訴外磯島勝二に贈与した。

(3)  訴外磯島吉松は、大正一三年ころその持分権の一部を従兄弟に当る訴外磯島多吉に贈与した。

(4)  訴外磯島山四郎は、昭和二〇年一〇月二〇日ころその持分権(全部)を分家に当る原告磯島三四郎に贈与した。

(5)  原告磯島市蔵は、昭和一九年五月一〇日ころ、その持分権の一部を分家に当る訴外磯島岩太郎に贈与した。

(6)  原告磯島栄八は、昭和二三年四月ころ、その持分権の一部を本家に当る原告磯島春松および同人の妹の夫に当る原告磯島寅吉に贈与した。

(三)  以上の異動により、本件土地の共有者は合計二一名となつたのであるが、昭和二三年六月ころ、本件土地を別紙図面表示のとおり分割し、これをくじびきにより二一名の共有権者に分配した。原告らは、その際、それぞれ本件土地のうち別紙目録表示の部分を取得して(単独)所有者となつたしだいである。もつとも、理在にいたるまで、右共有物分割にともなう分筆登記および取得登記はなされていない。

(四)  しかるところ、訴外青森県農地委員会は、昭和二六年一月三〇日本件土地のうち一〇町一反五畝二四歩(以下「本件買収土地」という。)につき、自作農創設特別措置法第三〇条の規定に基いて買収の時期を同年三月二日とする未墾地買収計画を樹立し、同年二月二日公告し、同日から同月二〇日まで関係書類を縦覧に供した(もつとも、その後、買収の時期は同年一一月一日と変更された。)。

(五)  これに対し、原告岩吉、定吉、兼松、栄八、市太郎、市蔵、松之助、熊太郎はその他数名の者と共同して右委員会に異議を申し立てたが、同年三月二四日異議は相立たない旨の決定があり、更に被告知事に訴願したけれども、同年七月二〇日訴願は相立たない旨の裁決があつた。

(六)  そして、被告知事は、昭和二六年一一月一日本件買収地につき「高橋新蔵外一四名」を名宛人とする買収令書を発行し、右令書の受領が拒否され交付ができなかつたとして昭和二七年七月八日附青森県報登載の青森県告示第四五六号により所定の事項を公告し、本件買収処分をした。

(七)  しかしながら、右買収処分には以下述べるようなかしがある。

(1)  本件買収処分においては、本件買収地が、高橋新蔵外一四名の共有に属するものとしているけれども、右は土地台帳における本件土地の共有者(すなわち、前記(一)に述べた一五名であるが、高橋新蔵を共有者としているのは高橋誠とすべきものが土地台帳にあやまつて新蔵と登録されたためである。)を、そのまま表示しているのである。しかしながら、現在においては、本件土地(従つて本件買収地)につき共有物分割が行われ、原告等の単独所有となつていることさきに述べたとおりである。すなわち、本件買収処分には所有者をあやまつた違法がある。

(2)  本件買収処分においては、本件土地のうち一〇町一反五畝二四歩だけを買収したのであるから、その範囲を明確にすべきであるにかかわらず、右範囲が不明である。

(3)  本件買収令書においては、名宛人をたんに「高橋新蔵外一四名」とし、各共有者の氏名を表示していない。のみならず、原告等に対し令書を送達した事実が全くない。従つて、その受領を拒否するということもありえないのに、受領を拒否されたとして交付に代えて公告している。すなわち、公告すべき場合でないのに公告した違法がある。

(4)  本件買収地のうち約三町歩は未墾地ではなく牧野である。

右は、明白かつ重大なかしに当るというべきであるから、本件買収処分が、各原告につきその単独所有地たる別紙目録および図面表示の範囲について無効であることの確認を求める。

(八)  仮に、共有公割の事実が認められず、従つて右第一次の請求が認められないとすれば、原告等は前記訴外人六名(伊藤倉三、磯島岩太郎、同吉松、同多吉、同岩五郎、同石太郎)とともに現に本件土地(本件買収地)の共有権者であるというべきところ、本件買収処分には前項(2)ないし(4)に述べたような明白かつ重大なかしがあるから、右買収処分のうち原告等の持分に相当する登記簿上原告市太郎、同兼蔵、同熊太郎、同岩吉、同定吉、同松之助、同市蔵、同喜一、同栄八、の持分に関する部分が無効であることの確認を予備的に求めるしだいである。

第三被告の答弁および主張

(一)  原告の第一次の請求および予備的請求をいずれも棄却するとの判決を求める。

(二)  請求原因のうち、(四)ないし(六)の事実は認める。(三)の事実中本件土地につき分割がなされたことは否認する。本件買収処分に無効原因があることは争う。

(三)  本件買収処分には何等の違法もない。すなわち、

(1)  本件土地について、原告主張のような共有物分割が行われたことはない。従つて、単独所有地を共有地として買収したとの非難は当らない。

(2)  本件買収処分が一筆の土地の一部について行われたことは、原告主張のとおりであるが、買収計画書には本件買収地の図面を添付してあり、土地の現況とあわせ買収の範囲は明確である。

(3)  本件買収計画書および買収令書に共有者中一名の氏名を掲げその余の者については他何名と表示しているが、右は何等違法ではない。けだし、共有者が少数であるときは全員の氏名を表示することもできようが、何十名、あるいは何百名の多数に及ぶときにその全部を表示すべしとすることは、難きを要求し、かつ、徒に行政庁の事務に繁雑を加えるのみである。商法においては、株式が共有のときはその権利を行使すべき者一人を定むべきことが規定され、国税徴収法においても共有物、共同事業に係る国税については権利者の一人に催告するをもつて足る旨規定されていることからみても、右のように解すべきである。仮に、前記の処置が違法であるとしても、本件買収処分を無効とするものではない。又、買収令書は、これを送達したけれども受領を拒否されたので、やむなく公告したのである。

(4)  本件買収地内には牧野は存しない。かりに存在するとしても、右かしは、本件買収処分を無効ならしめるものではない。

(5)  原告等のうち大部分の者は、本件買収計画につき異議訴願を申し立てたのであるが、当時本訴において主張している違法原因を主張しえたにもかかわらず全く主張しなかつた。従つて、原告等は右事由を本訴において主張することができないものである。

(四)  よつて、本訴請求は失当である。

第四証拠〈省略〉

理由

一  訴外青森県農地委員会が、昭和二六年一月三〇日八戸市大字鮫町字金屎三五番一号山林三二町三反一畝一〇歩(以下「本件土地」という。)のうち一〇町一反五畝二四歩(以下「本件買収地」という。)につき自作農創設特別措置法第三〇条の規定に基いて買収の時期を同年三月二日とする(ただし、後に同年一一月一日と変更された。)未墾地買収計画を樹立し、同年二月二日公告し、同日から同月二〇日まで関係書類を縦覧に供したこと、ついで、原告主張のとおり異議、所願を経て、被告知事が、昭和二六年一一月一日附本件買収地につき「高橋新蔵外一四名」を名宛人とする買収令書を発行し、それが送達したところ、その受領を拒否されたとして昭和二七年七月八日附青森県報登載の青森県告示第四五六号により所定の事項を公告し、本件買収処分をしたことは当事者間に争がなく、本件土地がもと宮内省の所有に属していたところ、請求原因(一)および(二)に記載したとおりの経緯で昭和二三年五月ころまでに原告等および同所記載の訴外人等合計二一名の共有に帰したことは被告において明かに争わないからこれを自白したものとみなされる。

二  原告の第一次の請求の要旨は、「原告等は、昭和二三年六月その余の共有者との間で本件土地を分割し、それぞれ単独所有者となつた。しかるところ、本件買収処分には請求原因(七)において述べたような無効原因が存在するから、本件買収処分が各原告につきその単独所有の範囲について無効であることの確認を求める」というにある。

これに対し、被告は、右分割の事実を争うから、この点について判断するに、証人平岡吉五郎、同磯島百松、同清水金太郎、同中村忠四郎等の各証言、原告本人磯島兼蔵の供述および右平岡証人の証言によつて成立を認める甲第一号証を綜合すれば、昭和二三年六月はじめころ本件土地の共有者間に分割の議がおこり原告磯島兼蔵の委嘱により土地家屋測量士平岡吉五郎が本件土地を実測して分割図を作成する等準備を進めたこと(当時本件土地については、その管理の方法として共有者間において使用区域が協定されており、分割の方針は、右事実上の使用地域をそのまま単独所有地にしようとしたものである。)が認められるが、右各証言および供述中共有者全員が集合の上分割に異議なく賛成した旨の部分は証人磯島吉松の証言に対比しにわかに措信しがたいところであり、他に原告の主張を認めるに足る証拠がない。かえつて、右磯島吉松の証言および甲第一号証によれば、右分割については共有者間に利害の対立があり、磯島吉松等他に比して僅少の割当しか受けられなかつた者は、にわかに分割するよりもやがで本件土地につき未墾地買収を受けた上売渡により分け前の増加をはかつた方がよいと考えこれに反対したため、結局分割協議が成立にいたらなかつたことがうかがわれる。

してみると、原告等が、本件買収地を分割し、単独所有権を有していることを前提とする第一次の請求は爾余の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。

三  進んで予備的請求について考える。昭和二三年六月の分割協議が成立にいたらなかつたものであること右認定のとおりであり、他に別段の主張立証がないから、本件土地は本件買収処分の当時においても原告等および前認定の訴外人等合計二一名の共有に属していたものと認めなければならない。さすれば、登記簿上も共有名義を有する原告市太郎、同兼蔵、同熊太郎、同岩松、同定吉、同松之助、同市蔵、同喜一および同栄八ならびに前記の如くこれら原告の或者から共有持分の譲渡を受けた原告春松、同寅吉、同兼松は右登記簿上の共有持分(いずれも一五分の一)に関する部分については本件買収処分の一部の無効確認を求める利益を有するものとしなければならない。

そこで、本件買収処分について無効原因が存在するかどうかについて判断する。被告知事が、昭和二六年一一 月一日附本件買収地につき「高橋新蔵外一四名」を名宛人とする買収令書を発行し、これを送達したところその受領を拒否されたとして昭和二七年七月八日送達に代わる公告により本件買収処分をしたことは前認定のとおりである。しかして、成立に争ない甲第三号証の四、証人証人福井俊夫、同佐藤輝房の証言によれば、本件買収処分は登記簿上の共有名義者すなわち請求原因(一)記載の一五名に対するものであるが、買収の相手方の表示はすでに買収計画書において「高橋新蔵外一四名」となつていること、令書は一通のみ発行されて高橋新蔵に対し送達の手続がとられた(受領を拒否されたか否かはしばらくおく。)ことおよび「外一四名」に対しては全く令書の発行ないし送達が行われなかつたことを認めるに充分である。

しかるところ、自作農創設特別措置法第三三条によつて準用される同法第九条によれば、未墾地買収処分は被買収地の所有者に対し買収令書を交付してこれをなすべきものであり、当該土地が共有に属するものであれば各共有者の共有持分を買収するに外ならないから各共有者に各別に買収令書の交付を要すると解すべきである。かかる見地から本件買収処分をみるに、令書の各宛人である高橋新蔵は本件土地については登記簿上も実質上も所有者でないことが前記認定事実から明白であつて、本件買収処分中同人(成立に争ない甲第一一、一二号証によれば、同人は、本件土地の登記簿上の共有者の一人である訴外高橋誠の父であり、又、原告高橋荘治の父であること、そして、昭和一六年一二月一四日死亡したことが明白である。)に対する部分は何等の効力を生ずるに由なく、「外一四名」に対する部分は買収処分として名宛人の特定を欠くことはもとより、令書の発行送達がなかつたから公告をもつて令書の交付に代えることのできる場合に当らないことはいうまでもなく、これ又無効といわざるをえない。

被告は、商法および国税徴収法の例をひいて本件買収処分が違法でないと主張するが、本件の場合において右被告援用の法条の精神を類推適用する余地がないことは多言をまたないから右主張は失当である。

さすれば、原告主張のその余の無効原因については判断を加えるまでもなく、原告荘治、同三四郎を除くその余の原告らの本件買収処分中登記簿上原告市太郎、同兼蔵、同熊太郎、同岩吉、同定吉、同松之助、原告市蔵、同喜一、同栄八の共有持分(いずれも一五分の一)に対する部分の無効確認を求める予備的請求は正当として認容すべきであるが原告荘治および同三四郎についてはその共有持分の被承継人たる訴外高橋誠、磯島山四郎の登記簿上の共有持分に対する買収の無効を主張せずして他の原告らの関係持分に対する処分を争う利益を有しないものというべきであるからその予備的請求も亦失当として棄却を免れない。

四  よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

(別紙省略)

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